鑑定評価書の見方。不動産の相続・節税にも
皆さんは不動産鑑定士にお仕事を依頼されたことはありますか?
不動産鑑定士は、お客さまから依頼された不動産について、その価格を鑑定し、「鑑定評価書」を発行するお仕事をしています。
この不動産鑑定士が発行する「鑑定評価書」。
一般の方はなかなか目にする機会はないと思います。
しかし、不動産が皆さんの身近な資産である以上、「鑑定評価書」を見る機会が全くないとは言い切れません。
例えば、皆さんがお住いになっているマンションなどの貸家で、建て替え工事をするので退去をお願いされた時、家主さんから借家権についての「鑑定評価書」を提出されるかもしれません。
また、収益不動産を購入するため金融機関に融資をお願いする際に、「鑑定評価書」が必要になるかもしれません。
そのほか、家賃の値上げ交渉で訴訟になってしまったときには、裁判の中で「鑑定評価書」が提出される機会があるかと思います。
さらに、不動産を相続する時、節税のために「鑑定評価書」を資料として税務署へ提出することもあるかもしれません。
このように「鑑定評価書」は普段の日常生活の中で目にする機会はあまりないと思われますが、「何か」の有事の際には、重要な資料となり、必要とされることが多いのです。
そこで、今回は初めて「鑑定評価書」を目にしたときに困らないよう、鑑定評価書の見方をご紹介したいと思います。
鑑定士が発行する評価書のなかには、「意見書」「調査報告書」「鑑定評価書」の3種類があります。
ここでは一般的な「鑑定評価書」についてお話いたします。
鑑定評価書に記される基本的な項目
まず、「鑑定評価書(以下評価書という)」は記載すべき事項が決まっています。
鑑定士が鑑定評価を行うときは、「不動産鑑定評価基準」という鑑定士のバイブルに基づき、鑑定評価を行っています。
したがって、評価書もその基準に沿って作成されています。
また、昨年平成26年には鑑定評価基準の改正があり、いろいろと記載すべき点が変更になりました。
けっこう細々と改正があるので、鑑定士はそのたびに記載事項を増やしたり、変更したりして対応しています。
①鑑定評価額
依頼された対象不動産の評価額が記載されています。
この評価額が一番重要です。
この価額を求めるために、鑑定士は日々頑張っています。
②対象不動産の表示
依頼された対象不動産の地番や建物があれば家屋番号、地目、面積などが記載されています。
③鑑定評価の基本的事項
種別、類型や鑑定評価の条件、価格時点、価格の種類が記載されています。
種別とは、「商業地」や「住宅地」などの土地の利用状況を言います。
類型は、「更地」や「貸家及びその敷地」などの評価の対象となる不動産の状態を言います。
鑑定評価の条件には、「現状を所与として」や現況では建物が建っているが「更地として」評価を行うとき、土壌汚染の可能性があるがないものとして評価を行う場合など記載します。
④鑑定評価の依頼目的や依頼目的に対応した価格の種類
どうしてこの鑑定評価が必要となったのか、その理由を記載します。
また、その依頼目的と求める価格の種類について記載されます。
価格の種類は一般的には「正常価格」と言われる価格を求めることが多いです。
この正常価格は、鑑定評価基準では「現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格」とされていますが、なかなか難しいので、なんとなく「市場価格」≒「正常価格」でよいと思います。
⑤鑑定評価を行った年月日
鑑定評価は将来時点については基本的にはできません。
また、価格時点から大きく離れた日に鑑定評価を行うのは、評価に無理が生じることがあるので、いつ鑑定評価を行ったのか記載します。
⑥関与不動産鑑定士及び関与不動産鑑定業者に係る利害関係等
この鑑定評価に関わった不動産鑑定士と依頼者や鑑定業者との利害関係がどうなのか記載されます。
私は利害関係のある方の鑑定評価には関わったことはないですが、もし利害関係者の鑑定評価を行う場合は、ここに記載することになります。
⑦対象不動産の確認
鑑定評価は実際に対象不動産を見ないと評価できません。
対象不動産を現地で実際に見て、図面などの資料と整合しているか確認します。
建物が対象となる場合で内覧ができないときには、その理由と確認できた範囲を記載します。
また、登記簿などを用いて、所有者についても確認し、記載します。
⑧鑑定評価額の決定の理由の要旨
ここからが、対象不動産の価格についての分析の内容になります。
鑑定評価は、マクロからミクロに不動産を見ていきます。
まずは、社会一般の経済情勢について、「一般的要因の分析」があります。
株価が上昇している、企業の設備投資が増えている、雇用情勢が改善してきた、などの一般的な経済情勢が記載されています。
地域分析や個別分析など、その不動産の状態を示す項目もある
次に「地域分析」となります。
ここで、対象不動産はどういった地域に存するのか、対象不動産の周辺地域(近隣地域)の道路状態、用途地域、上下水道の状態、最寄駅への距離、対象不動産の不動産市場で不動産を購入しようとする需要者はどんな人(企業や法人等)なのか、その不動産市場の範囲はどれくらいなのか、またその不動産市場はどんな状況なのか、将来はどうなっていくのかを記載します。
例えば、対象不動産が堺市内の駅前の商店街に存する商業地であれば、主な需要者は地元の個人事業者で、代替競争関係にあるのは同じような堺市内に存する駅前の商店街の商業地で、不動産市場動向としては、
『商店街はややさびれ気味で人気がない。』
というような記載になります。
また、地域分析では、対象不動産の周辺地域(近隣地域)の標準的使用を判断し、記載します。
標準的使用とは、その地域で一番標準的と考えられる使用方法です。
例えば、対象不動産は低層の店舗であるが、周辺は高層マンションになっている場合、標準的使用は「高層マンション」になります。
最後に「個別分析」になります。
個別分析では、まさに対象不動産はどんな状態にあるのかを判断し記載します。
対象不動産が接道する道路の状態はどうなのか、対象不動産の画地規模、形状、埋蔵文化財、土壌汚染の有無などを記載します。
ここで、対象不動産と代替競争関係にある不動産との比較を行います。
例えば、住宅地であれば、他の住宅地と比べて人気が高いのか、住宅建築に適しているのかなどを分析し、対象不動産の不動産市場での競争力の程度を判定し、記載します。
そのうえで、対象不動産の最有効使用を判定し、記載します。
最有効使用は、対象不動産にもっとも適した利用方法のことを言います。
これは必ずしも近隣地域の標準的使用と一致しません。
この最有効使用の判定が非常に重要で、この判定が鑑定評価を大きく左右します。
⑨鑑定評価手法の適用
ここで鑑定評価手法がいくつか出てきます。
先ほど述べた最有効使用に基づいて、評価方針(どうやって評価していくのかの手順)を決め、鑑定評価手法を適用し、対象不動産の鑑定評価額を求めていきます。
鑑定評価手法の内容については、非常にややこしいので、また別の機会にご紹介したいと思います。
⑩鑑定評価額の決定
様々な鑑定評価手法により求められた試算価格を吟味し、対象不動産の鑑定評価額を決定します。
これで、鑑定評価書は終わりです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
ざっくりと評価書の流れをご説明いたしました。
評価書は初めて見ると、何が何やらわかりにくいかと思いますが、書かれていることは意外にシンプルです。
一般的な社会経済情勢の中で、対象不動産を含む地域がどういう状態にあるのか、不動産市場はどうなっているのか、その不動産市場で対象不動産はどんな状況なのか、を判定し記載しています。
ぜひ機会があれば、じっくりと読んでみてください。
なかなか楽しいものであると個人的には思っています。
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